高山研Newsletter (No.15)

 

既存建築物の保全と免震

今月のNewsletterは免震レトロフィットについての解説です。

1995年、国立西洋美術館が免震補強され、国内初の免震レトロフィットが実現しました。日本で唯一のコルビジェの作品をそのままの形で残すには、免震補強は最適の工法でした。しかし、費用増加などの問題で、採用には大きな決断が必要でした。それからたったの数年で、歴史的建造物や社会的重要な建築物の耐震補強には、最初から選択肢の一つに免震が取り込まれるようになってきています。現在、免震レトロフィットは表に示すように28の事例が確認されています。表には入っていませんが、先月のNewsletterで紹介した大阪の中之島公会堂も免震レトロフィットによる保存再生工事が行われています。

完了年月

件名

建設地

1

1994.1.14

報徳二宮神社修復工事に関する拝殿免震計画

小田原市

2

1996.7.25

国立西洋美術館本館免震改修

台東区

3

1996.8.30

本願寺帯広別院本堂改築工事

帯広市

4

1996.8.30

大成建設湯河原研修センター耐震改修工事<東館>

熱海市

5

1996.8.30

大成建設湯河原研修センター耐震改修工事<本館>

熱海市

6

1996.11.22

佛所護念会教団大講堂改修工事

港区

7

1997.2.28

鹿島テラスハウス南長崎4号棟免震改修工事

豊島区

8

1997.6.23

中部大学9号館免震耐震補強工事

春日井市

9

1997.11.28

東京都豊島区役所本庁舎耐震補強工事

豊島区

10

1998.3.27

立教大学礼拝堂耐震補強工事

豊島区

11

1998.3.27

鉄建建設本社ビル免震化工事

千代田区

12

1998.4.24

国立国会図書館支部上野図書館

台東区

13

1998.11.20

真宗大谷派林光寺庫裡免震化工事

台東区

14

1998.11.20

日本大学理工学部船橋校舎3号館免震補強工事

船橋市

15

1998.12.18

大阪市中央公会堂保存・再生工事

大阪市

16

1998.12.18

九段郵便局庁舎・九段宿舎耐震改修その他工事

千代田区

17

1999.1.22

本庁舎耐震化工事  

神奈川県

18

1999.3.26

東京家政大学付属中高B棟耐震改修工事

東京都北区

19

1999.4.23

帝人(株)東京研究センター本館改修工事

日野市

20

1999.5.21

旧県庁舎本館玄関部分曳家・補強工事

鹿児島市

21

1999.7.30

鹿島テラハウス南長崎3号棟免震改修工事

豊島区

22

1999.7.30

村上市庁舎免震改修工事

村上市

23

1999.5.14

姫路信用金庫本店耐震改修工事

姫路市

24

1999.9.10

議長公邸増改築

千代田区

25

1999.11.26

東京ダイヤビルディング1〜4号館 免震化工事

東京都中央区

26

1999.12.17

新宿区西口本館ビル耐震補強工事(Aビル)

新宿区

27

1999.3.17

東日本建設業保証ビル改修工事

東京都港区

28

1999.4.21

関西大学工学部第一実験棟免震化工事

大阪市  

この中で工事中を含め、4つの建築物を実際に見学することができたので、紹介します。

◆豊島区役所

所 在 地:東京都豊島区東池袋

構造形式:鉄筋コンクリート造

耐力壁付きラーメン構造

免震レトロフィット採用要因は、 従来型の耐震改修をする場合、 区役所という用途から改修に伴う住民サービスの低下が心配されたことによります。免震部材は弾性すべり支承37台(写真)、 積層ゴム支承59台が使用され、 すべり摩擦によるエネルギー吸収効果でもって減衰性能を実現しています。工事範囲は地下階と建築部外周に限定されて、騒音・振動・埃の発生する工事は夜間・休日に行われました。

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豊島区役所外観

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弾性滑り支承

◆衆議院議長公邸

所 在 地:東京都千代田区永田町

構造形式:鉄筋コンクリート造

既存建築設計者: 岸田比出刀

免震層は半地下となる基礎部分(写真).免震部材は2面球面すべり支障(FPS)が76体使用されています。工事見学の時点(2000年9月)は、 ちょうど免震部材設置の段階でした.階高が低く作業環境はやはり厳しい。 衆議院議長公邸に続き、 首相官邸の免震レトロフィットによる改修が決定しました。現在新官邸が施工中で、 旧官邸は公邸の機能だけを残して再活用されます。

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公邸外観

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免震層外周部

◆立教大学礼拝堂

所 在 地:東京都豊島区西池袋

構造形式:煉瓦造+鉄筋コンクリート造,木造小屋組屋根

建物内外観を極力維持するという立教大学側の要望があり、 地上部分の補強を大々的に行うことは難しく、 内外観への影響が最小となる免震レトロフィットが採用されました。 使用された免震部材は高面圧天然ゴム系積層ゴムと鉛ダンパー。礼拝堂西側にはチャペルが隣接していて、 免震クリアランスはチャペル壁面を後退させることで確保してあります(写真) 。 立教大学の統一された赤煉瓦建築群の景観は損なわれることなく改修を終えています。

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礼拝堂外観

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チャペル側ジョイント

◆国立国会図書館支部上野図書館 

所 在 地:東京都台東区上野公園

構造形式:鉄骨補強煉瓦造(明治期部分),RC造(昭和期部分)

帝国図書館として、 ジョサイア・コンドルに師事した久留正道らにより設計されました.ルネッサンス様式として知られる代表的な明治期洋風建築で、 特にその外観は東京都選定歴史的建造物に定められています。地下1階の階高が2. 7mと低く、 用途が限定されること、 及び地下階外周にドライエリアが設けられていることから、 この部分を免震層として比較的容易かつ経済的に免震化ができるため、 免震レトロフィットが採用されました。免震部材は高面圧天然ゴム系積層ゴムと鉛ダンパー (写真). 今回の改修の一貫として、 安藤忠雄設計による平成期の建築が明治期・昭和期の間を貫くように増築されます。この上野図書館のように既存建築を復旧させるだけでなく、 現代の建築を新たに付加するという試みはこれからますます増えていくと予想されます。

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上野図書館外観

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免震部材

近年、建築物保全の動きが高まってきています。「壊す時代から再生の時代へ」という言葉を目や耳にすることも多いのではないでしょうか?
免震レトロフィットは、これまで困難だった意匠保全を可能にし、建築再生の運動を技術面から支えています。

(平成13年6月11日 大宅充和子記)

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