高山研Newsletter (No.4)

 

技術と法律

  建築基準法が改正され、本年6月から施行されている。しかし、細かい規程が示されるはずの告示は、今年の春ごろよりようやく公開されはじめ、未だに公開されていないものもある。免震構造関連の告示に至っては、6月に入って告示案が提出され、7月中旬になっても正式な告示は公表されていない。

 今回の法律改正で非常に問題なのは、法律で規定されていないことは技術的優れた構法・システム・材料であっても基本的に採用できないこと、従来は実験的に性能を検証したものは使用することがある程度認められていましたが、今回は条文から削除されました。この様に、今回の法改正は性能設計を指向したものと期待されていましたが、仕様規定が強化されたようにも感じます。

 免震構造関連の告示案でも、本来動的な解析によって、免震建物の性能を評価すべきところを静的な解析のみで可能としています。この方法では動的解析ができない設計者でも免震建物の設計が可能となり、免震建物が普及することが予想される反面、免震建物の動的特性や免震部材に関する知識がない場合には免震とは呼べない建物になる可能性も否定できません。加えて、今回の告示案に示されている地震入力レベルは、従来の動的解析で用いられていたレベル2地震動よりも大きなレベルとなっています。このため、これまで設計された免震建物を今回の告示案に照らし合わせると、既存不適格となる建物が出てきます。これまで「評定」で確認されてきた免震建物の設計と今回の告示案によるものの間には大きな差があり、この様な結果についてはきちんとした説明がなされるべきでしょう。

 また、積層ゴムやダンパーなどの免震部材を「免震材料」と呼称し、告示で規定していることも重要な問題です。積層ゴムは「材料」ではないのですから、鉄筋やコンクリートなどと同列に扱うこと自体が問題だし、法律で性能を規定できるような段階にはないからです。基本は、積層ゴムを構造部材と認識し、設計者がきちんと性能を見極められるような環境を提供することが肝要だと思っています。

 建築基準法は建物の最低限の性能を規定するものであると建設省などでは説明していますが、免震構造で最低限の性能など意味があるのでしょうか。免震構造は従来の耐震構造よりも高い性能を確保できるシステムであるにもかかわらず。そろそろ「技術」を法律で規制することはやめる時代にきているのではないでしょうか。法律では大きな枠組みだけを示し、細部は設計者に委ねることで、技術変化にも柔軟に対応でき、設計者の権限と責任も明確になっていく、そんな21世紀にふさわしい法律体系であって欲しいと思います。

 この様な建築基準法・告示に関する情報は建設省のホームページ(http://www.moc.go.jp)で公開されています。この様な法改正に対する日本建築学会からの意見書(パブリックコメント)は学会のホームページ(http://www.aij.or.jp/scripts/request/document/000526.htm)で公開されています。                                                  

(平成12年7月13日 高山峯夫記)

 

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福岡は飾り山の季節になりました。

 

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