〈RSL免震システム〉
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2.RSL免震システム

1. RSL免震システムの概要


免震構造は建物の根本で全ての地震のエネルギーを吸収します。確実に、1カ所でエネルギーの流れを断ち切るものをそこに構築するためには、その技術と製品に信頼性がなければなりません。現在、様々な免震構造設計がなされていますが、確実に安全であるといえるのは、RSL免震システムだけです。

   

(1)RSLとは

RSL免震システムのRはリライアビリティ(システムの信頼性)、Sはセービングコスト(低価格)でLはリバティ(自由設計)を表しています。すなわち、RSL免震システムは、安全性は耐震設計より高く、費用は耐震設計の建物と変わりないレベルで、しかも建物への地震の影響が非常に少ない分、自由な設計手法を駆使した建築物が設計出来るという意味を込めています。

また、“RSL”は天然ゴム系積層ゴムに用いられるゴム(rubber)の“R”、鋼棒ダンパーの材料である鉄(steel)の“S”、鉛ダンパーの材料である鉛(lead)の“L”も同時に表現しています。

特に、RSL免震システムに用いられる積層ゴムは、被覆型よりも性能の高い鋼鈑露出型であることが必須条件です。建物重量を支える積層ゴムは免震構造の命であり、曖昧性が極力少ないことが最も大切です。

(2)究極の4秒免震

免震で一番重要なのは、「免震構造部分の一次固有周期が何秒であるか」と云うことです。建物の一次周期を4秒以上にすると、地震波の種類にかかわらず、建物の応答はほぼ一定になり、応答レベルも小さくなります。4秒免震を実現すれば、建物は一つの固まりとして動き、たわみやねじれを生じることなく、ただゆっくり水平に動くだけで、さらに建物内部空間の安定性は保たれ、家具の転倒はもとよりコップの転倒も起こりません。




   

4秒免震であれば、「建物は地震との関係が切れた」と断言することができます。理想的な免震である5秒免震と4秒免震の性能の差は数%しかありませんが、4秒免震と3秒免震の差は雲泥の差があり、2秒免震に至っては4秒免震とは全く別の物といっても過言ではありません。

「よほどの地震がこないと4秒免震は必要ない」と無責任に考えている人もいますが、3秒免震では、不安要素が残り且つ設計や解析にも信頼がおけないことを十分理解する必要があります。

(3)4秒免震を実現するRSL免震システム

高い信頼性
RSL免震システムでは、アイソレータとダンパーを別置きとしてその信頼性(Reliability)を確保しています。アイソレータとダンパーを一体型にした高減衰積層ゴムや鉛プラグ入り積層ゴムでは、積層ゴムのみの固有周期が確認できない(運動方程式が特定できない)ことや限界性能に不明点があるため、その性能の信頼性に問題が生じます。また、地震のエネルギー吸収装置であるダンパー機能を同時に持たすため、塑性変形による発熱が、積層ゴム内部で起こり、熱に弱いゴムの性状に悪影響(120℃で変質を始める)を与える恐れも考えられます。さらに鉛プラグ入り積層ゴムでは、地震後の鉛プラグ及び中間鋼板の損傷を確認できないため、最悪の場合、免震装置全数を交換しなければならなくなる事態も考えられます。

RSL免震システムは、各部材の実験データが豊富でしかもアイソレータの機能とダンパーの役割を確実に分けていますので、地震時の免震機能を確実に把握できると同時に地震後もアイソレータに損傷が起こらないので、ダンパーのみの点検あるいは交換だけでメンテナンスが完了します。(低コスト)

低コスト(Saving-Cost)
免震建物は地震による被害が極めて少なくなるため資産価値が守られ、融資などの優遇処置や、災害保険料が減額され、ライフサイクルコストが安くなります。

4秒免震を実現するためには、積層ゴムにかかる面圧を150kg/cm2、二次形状係数を5以上にする必要があります。この面圧を実現できるのは天然ゴムで製作されたRSL免震システムの積層ゴムのみで、他の積層ゴムについては面圧70〜100kg/cm2程度にしか出来ません。これは、材質の問題の他に、積層ゴムの中心部に大きな穴が空いていないことで実現が可能となります。(積層ゴムの中心部に大きな穴があると中間鋼板の強度が極端に落ちるため)

この積層ゴムにかかる面圧を大きくすることにより、他の積層ゴムを用いた場合より直径を小さくすることが出来、その分コストを押さえることが出来ます。ダンパーを別置きする事で、コストの増加や据付費用が余計にかかるといったことも云われますが、信頼性のある免震構造にするためには、アイソレータとダンパーを別置きにすることは絶対条件(コスト以前の問題)であり、自由な設計を行うためにも必要不可欠となります。

自由設計(Liberty)
免震建物の設計では、免震層における免震部材全体の剛心を上部構造物の重心と一致させ、ねじれを生じないようにすることが原則となります。RSL免震システムは、アイソレータとダンパーを別置きにしていますので、ダンパーの配置により容易に免震建物の重心と剛心をあわせられるようになっています。従って偏心建物や斬新デザインの不整形な建物にも適用でき、自由な設計が実現されます。

(4)免震に優位な建物

RSL免震システムは、超高層から軟弱地盤のあらゆる構造物に対して適応されます。



2. 耐震構造とのコスト比較


   

(1)イニシャルコスト−1

表-1は各免震システムが1トンの建物を支承する時の装置費用を、使用面圧を変えて算出したものです。算出基礎覧には現状の製品定価と各メーカーの推奨面圧の指定値を採用しています。

これから判る通り支承単価は各部材の持つ載荷性能(鉛直支持能力)によって決まる事が判ります。


表-1:RSL免震システムの部材価格(円/トン)
免震システム
使用面圧(Kg/cm2
算出基礎
60
80
100
120
140
RSL
11,614
8,711
6,968
5,807
4,977
φ1000NRアイソレ-タ…340万円
鋼棒ダンパー(41トン)…137万円
鉛ダンパー(10トン)…70万円
支持荷重…1178トン
推奨面圧…150Kg/cm2
LRB
8,847
6,640
     
φ1000LRBアイソレ-タ…417万円
支持荷重…785トン
推奨面圧…100Kg/cm2
HDR
7,219
       
φ1000高減衰アイソレ-タ…340万円
支持荷重…604トン
推奨面圧…77Kg/cm2
RSLを100とし
た時のコスト比
HDR
145
LRB
133
   
RSL
100
 
   
  • LRB=鉛プラグ入り積層ゴム
  • HDR=高減衰積層ゴム
  • 単位表現はKg/cm2を使用しております。
   

算出基礎の計算方法
積層ゴムの支持荷重(推奨面圧×断面積)をもとに鋼棒ダンパーと鉛ダンパーの使用分配(4.3%)を加算しています。


   

(2)イニシャルコスト−2

表-2はアイソレ−タの部材コストと取付け費及びダンパーの部材コストと取付け費の一例を示しています。


表-2:RSL免震システムの材工価格(円)
建物重量:10,000トン
   
RSL
LRB
HDR
積層ゴムアイソレ−タ
φ800 14体
φ1000 14体
φ1200 14体
 
部材費
30,800,000
50,400,000
65,800,000
 
取付け費
1,400,000
1,400,000
1,400,000
鋼棒ダンパー
φ75 11体
 
φ75 5体
 
部材費
7,700,000
 
3,500,000
 
取付け費
550,000
 
250,000
鉛ダンパー
φ180 7体
   
 
部材費
4,900,000
   
 
取付け費
350,000
   
合 計
合計( 定価 )
45,700,000
51,800,000
70,950,000
トン当たり 円/トン
4,570
5,180
7,095
RSLを100とした時のコスト比
100
113
155

   

まとめ
免震部材を比較すると、RSLシステムは使用面圧を高く出来る為、LRBやHDRよりかなり割安になります。


   

(3)ライフサイクルコスト


   

まとめ
ライフサイクルコストを考慮すると、仮に初期建設費が高くてもトータルコストは安くなります。

参考文献
塚田康夫、木村雄一、河村壮一:SRMによる免震建物のライフサイクルコスト評価、第10回日本地震工学シンポジウム論文集 1998.11より。



3. 使用部材の紹介


   

(1)RSLシステムでの部材

天然ゴム系積層ゴム

RSL免震システムの中心部材である積層ゴムアイソレータは、薄いゴムシートと鋼板を交互に積み重ね、加硫成型したものです。積層ゴムが圧縮力を受けたとき、ゴムシートは外側へ変形しようとしますが、中間鋼板により変形が拘束され、加えてゴム材料の非圧縮性によりゴム中心部に3軸圧縮応力(静水圧)状態が形成されます。これは、あたかも水がゴム中に閉じこめられ、ゴムシートが「漏れない水」になっているようなものであり、きわめて大きな鉛直剛性と荷重支持能力を有しています。これらの性質により、究極の4秒免震が実現できるのです。

 

積層ゴムアイソレータの形状

 

FEM解析結果

   

●写真は、積層ゴム(直径500mm、ゴム厚7mm、ゴム層数14)の3次元有限要素解析による最小主応力分布(軸力200t、せん断変形370mm)です。黄の部分は応力度が小さく、中心に近い部分が最も応力度が大きくなっています。これより、積層ゴムの反力分布の中心が移動し大変形時にも安定して大きな軸力が支持できるメカニズムが形成されていることが分かります。

鉛ダンパー
鋼棒ダンパー
 

弾塑性系履歴型ダンパー

RSLシステムでは、弾塑性系履歴型ダンパー(鋼棒ダンパー、鉛ダンパー)を採用しています。 弾塑性系履歴型ダンパーの特徴は、

  1. メンテナンスが容易
    設置後は外観検査のみで、ダンパーの劣化診断が可能です。
  2. 地震以外の災害にも強い
    免震装置の設置は主に建物の基礎部(地下)に設置されます。そのため、免震建物は地震以外に水害等の災害を受けることもあり、免震部材の構造は単純であることが望まれます。RSLシステムで採用している弾塑性系履歴型ダンパーは、材料のもつ素材そのものの特性を利用したもので機構が単純であり、水害や粉塵に対しても全く問題は生じません。
  3. 各種依存性が小さい
    弾塑性系履歴型ダンパーは、温度依存性や周期依存性が小さく、地震の規模や季節によっても性能はほとんど変わりません。
  4. 性能の経時変化がない
    弾塑性系履歴ダンパーは建物の荷重を受けないため、また使用している素材の耐食性が優れているため、性能に関して経時的な影響を受けることがありません。
  5. 実験データが多く、信頼性に富む
    各社自社研究の他に、福岡大学の協力を得て、各種の実験や解析を行ってきています。


4. 他の免震システムとの比較


   

(1) LRBと高減衰の紹介、RSLの優位性比較

代表的な他の免震システムを以下に紹介します。

LRB(一体型)鉛プラグ入り積層ゴム
積層ゴム中央部に設けた円柱状の中心孔に鉛を圧入し、せん断変形時には内部の鉛プラグの塑性変形により、エネルギーを吸収するダンパー内蔵型の積層ゴムです。履歴特性はせん断ひずみ依存性を有します。面圧100kg/cm2以上、せん断歪み200%以上でソフトニング傾向が見られ、線形性が保持されません。面圧依存性は相対的に大。鉛プラグも鉛直荷重を分担するが、影響は不明です。

中間鋼板の中心部に大きな穴(鉛プラグ用)があるため応力集中を受けるので、高面圧、大変形時に塑性化が進み、終局的には中間鋼板に亀裂を生じる可能性があります。

また鉛は化学物質等管理促進法(PRTR法)において第一種指定化学物質に該当し、将来建築物を壊す際に積層ゴム部と鉛部を分別して処理しなければなりません。LRBは積層ゴムと鉛が一体となって製造されている為、廃棄物処理費用は多大なものになると予測されます。

高減衰積層ゴム
ゴム材料に特殊配合のゴムを使用することで、ゴム材料の粘性を高め、それ自身でエネルギー吸収も行う積層ゴムです。履歴特性は微小変形から非線形性を示し、温度、振動数、せん断ひずみ、変位履歴に対する依存性が強い傾向があります。

天然ゴム系積層ゴム以外のダンパー一体型である高減衰積層ゴムや鉛プラグ入積層ゴムでは、バネの設計域における線形性を犠牲にしてダンパー機能を付加した積層ゴムであるといえ、設計用の解析モデルを作成する際には十分な配慮が必要となります。

また、高減衰積層ゴムや鉛プラグ入積層ゴムは、ダンパーの影響を除いた固有周期が確認できません。ダンパー別置きのRSL免震システムはそれができるので信頼性が高いといえます。

(2)偏心建物の場合の比較

RSL免震システムは、ダンパー別置きのため偏心処理が明快かつ簡便です。特に不整形建物や増築がある場合にも、設計者は偏心の処理を極めて容易にすることができます。ダンパー一体型である高減衰積層ゴムや鉛プラグ入積層ゴムでは、ダンパーがアイソレータ位置に限定されるため、偏心処理に限界があります。

(3)4秒免震ができるのはRSLシステムだけ

免震構造の1次固有周期の違いによって、地面から建物に入力される地震エネルギーの量が違ってきます。入力される地震エネルギーの量が小さければ小さいほど、建物の揺れは小さくなります。免震構造の1次固有周期を4秒以上にすると、地震波の種類にかかわらず、建物の応答はほとんど一定になり、その応答レベルも小さくなります。

言い換えれば、1次固有周期2秒や3秒の建物では、地震波の種類によっては、建物の揺れは小さくならない場合があります。

建物の周期を4秒以上に設定するためには、面圧が150 kg/cm2程度、2次形状係数(積層ゴムの直径と全ゴム層厚の比)が5程度の積層ゴムをアイソレータに用いることが必要です。このためには、天然ゴム系積層ゴムを使用する必要があります。

天然ゴム系積層ゴムは、引張り強さや伸び、耐クリープ性に優れ、温度変化による物性変化が少なく、高面圧化(平均面圧200kg/cm2)が可能です。さらに、解析のためのモデル化は容易であり、精度が高いといった特長があります。

これに対して、LRB(一体型)鉛プラグ入り積層ゴムならびに高減衰積層ゴムでは、高面圧化に限界があります。バネの設計域における線形性を犠牲にしているため、設計用解析モデルが複雑でありかつ、精度が低いといった問題があります。

究極の4秒免震を実現できるシステムは現在のところRSL免震システムのみです。