■玉名天望館  主観的な美と社会との関係性をみる

理念の複雑さと形態的複雑さの一致
(榎木園飛鳥)
玉名市は緩やかな勾配をもつ遠方の山々に囲まれた、雄大な自然を望む環境にある。市街を見下ろす丘の上に立つ天望館はまちを象徴する存在といえる。建築は地域の自然と人間、さらには宇宙との有機的関係性を“環境生命体”として表現し、幸福の象徴とされるハスの花や玉名の発展を寓意する三本の矢など多様な要素が織り交ぜられた。

建物を回遊すると、彫刻的な打放しコンクリートと風景のあいだを視線が行き交う感覚を覚える。鋭角を用いた狭いフロアと傾斜した手すりは心理的にその場に留まることを困難にする。頂部に開口を設けた楕円球状の閉鎖的空間が天望館たる機能を果たす。彫刻的建築は、風景を含有しながら観照される対象として抽象世界を志向するものの、具象要素の形態的曖昧さとその選択の問題が理解の障壁となるだろう。

 価値観や行動原理が個人に置かれる時代では、表現対象の普遍性や抽象性を意図しながらも言葉やデザインに個人に基づく主観的側面が現れる。画一的社会に相対する個人的側面の多様性を肯定すべきであろう。(野口雅広)

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