◎熊本市営託麻団地

現在の詫麻団地は、1960年代後半から3期にわたって建設された低層団地を、3人の建築家が協同し、建替えたものである。各建築家が異なったプロセスで設計した住棟を約4haの敷地に混在させ、都市空間において、建築が自然発生的に造り上げられる要素を組み込んでいる。しかし、住民の話によると、各住棟のデザインや屋内計画の違いが、同じ団地に住むという住民の一体感といった意識を妨げる原因となっているようである。(市丸友理)

■熊本市営託麻団地 6, 7, 9, 10, 14棟, 集会場(坂本一成)
公私領域の緩和/視線気になるとの声も



吹き抜けに面したベランダには目隠しが目立つ(市丸友理)
6, 7, 9, 10, 14棟と集会場は坂本一成によって計画された。この住棟は団地中央を縦断する中央緑道を住棟内部までピロティーや住棟横断道路によって引き込み、住棟横断道路上部が半戸外的な吹抜けとなるよう住戸を囲むように配されている。このことは住棟と団地内との滑らかな領域的関係を形成し、また屋内空間と屋外空間の連続性を生み出しており、パブリックな領域からプライベートな領域までを緩やかに連続させようとしている設計者の意図がはっきりと見てとれる住棟であった。しかし、ピロティーや住棟横断道路には各棟ばらつきが目立つ。特にピロティーであるが、中央緑道に面し上手く機能している棟もあれば、全面が駐車場となり暗く機能出来ていない棟も見られた。また住民の話によると住棟横断道路や吹き抜けは各住戸に採光と通風といった居住性にまで効果を見せてはいるが、その反面吹き抜けに面したベランダや窓への視線が非常に気になるとのこと。設計者の意図と実際生活する住民とのバランスの取り方の難しさを痛感させられる点であった。

住棟と住棟の間に配された集会所は利用頻度が高く住民に好評ではあったが、台形となっている集会室の形状は面積のわりに入る人数が制限されてしまい唯一気になる点である。(市丸友理)

■熊本市営託麻団地 4, 8, 13棟(松永安光)
自然と一体化した団地/使い勝手の悪い居住空間



不規則な形が、団地内の自然ととけ込んで一つの風景を作り出している。(豊田佳奈)
グレーに塗られた壁に淡い白緑のバルコニー、不規則な直線・縦に突き抜ける細い柱。一見デザイナーズマンションかと思える外見をした建物、それが託麻団地4・8・13棟である。松永安光は、プロジェクトを担当した一人でこの3つの棟を計画した。彼は、幾何学的な形状をした団地に、ある不規則性や偶発性を取り込み、馴染んでいくような魅力ある建築としていきたいというコンセプトのもと、この建物を計画した。私が目にした建築物はまさに彼の言葉を形にしたモノであった。多角形に切り取られた屋根は、木や空によく馴染んでいたし、ランダムな配置計画は建物のヴォリュ−ムを上手く抑えているように思えた。その日は気温32度と、とても暑い日だったが、3タイプの団地が自然発生的に並び、カーブを描くなだらかな斜面を子供たちが自転車で駆け下りてきていた。その風景はとてものどかで団地が一つの町の様であった。しかし、住人はそんなに満足していないようだ。使い勝手が悪い、湿度が高いなど不満はかなり出て来た。アートポリスに参加し始めて3年目、どこにいっても使用者の「使い勝手が悪い」という不満を聞く。デザイン性の高さと機能性を両立する事は不可能なのかという思いを抱かずにはいれなかった。(豊田佳奈)

■熊本市営詫麻団地 5, 11, 12棟(長谷川逸子)
階段室は風の抜け道/三角の庇はいらない



三角形の庇は役に立たない(久々宮章太)
5,11,12棟は団地に多い直線的なつくりではなく、階段部分をジョイント部とし、二戸ごとに微妙にずれ、全体として緩やかにカーブを描いている。そこで、まず目につくのは階段室の壁面の色である。その色は鮮やかな黄色で、階段室全体を明るくしている。また階段室は棟全体のスリットの役割をし、風の抜け道となっている。

棟は道路に面しているが、道路と敷地の境界線ギリギリではなく、余裕を持って建っており、棟と道路の間には植栽がある。道路側から見ると外部環境に十分に配慮されており、好印象だった。

しかし、部屋の結露がひどい、階段の音が響く(声や足音)、三角形の庇は役に立たない、などの住民の声もある。

実際に住んでいる人に聞く住み心地と、外見からの印象ははるかに違うものだった。一見、スタイリッシュなものでも、住民にとって住み心地の悪い建物になってしまっては意味がないと思う。機能と美を持ち合わせることは難しいと感じた。(久々宮章太)

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