養護老人ホーム八代市立保寿寮
従来のイメージ一新/細かい配慮の不足



デザイン性が強い。開口部は大きいが、はめ殺し窓が多く使い勝手が悪い。(市丸友理)
この養護老人ホームでは65才以上のお年寄り約50名と、16名の職員が生活している。竣工は1994年3月で伊東豊雄によって設計された。敷地は静かな海と天草の島々を遠くに望む干拓地にあり、赤い歩行者専用橋からは日奈久温泉街へアプローチできるようになっている。自然があふれた場所ではあるが周囲には建物も少なく幾分さみしい場所である。

建物は直方体のヴォリュームで、それを楕円(曲線)という動きで切り取ることにより流れが生みだされている。また低めの廊下と抑揚をつけた広いヴォイドがパブリックな場を創出している。コンクリートで冷たい感じがするが黄色、ピンク、水色、緑と柔らかい色調でまとめてあるのと、ガラスの開口部が多く設けてあるため明るい印象の建物である。

しかし、利用者に話を聞いてみると、このガラスの開口部が一番使いづらいとのこと。窓が開閉できないため風が入らず、加えてカーテンもついていないために朝日や西日が直接差し込み、夏場の冷房をつけても熱が溜まるために過ごしにくいということだった。1階の食堂の上部には円形の開口部がつけられているが、朝はそこから光が入り、スポットライトのように利用者の顔面を照りつけるため、職員が苦肉の策として段ボールを貼り付けていた。

全体的に見て、デザイン重視の建物となっており実用性や快適さに対する配慮が欠けていると感じた。個室があることや個人に一つトイレがあることなどから利用者は比較的満足しており快適であるといった意見も聞かれたが、メンテナンスを手掛けている職員には利用しにくい建物となっているようである。(西田真智子)

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