
清和文楽館。四角の建物には舞台、円形の建物には浄瑠璃の展示がある。両方をつなぐ廊下から緑の広場が見渡せる。
(中川貴幸) |
清和文楽館は上益城郡清和村の山に囲まれた国道沿いにある。青々と茂る芝生の中にしっくい塗りの壁が静かに建っている。あたかも、この場所だけが昔のままに時が止まっているかのようだ。江戸時代から確実にこの清和村に伝承されてきた文楽がここにあった。
石井和紘のデザインによる清和文楽館は、1992年にそれまで例のない大規模木造建築物として施工された。木材は熊本県産のものを使用してある。文楽館は、3つの部分〔舞台棟、客席棟、展示棟〕からなる。各棟には新しく試みられた在来工法を取り入れている。舞台棟には、ワリバシ工法。客席棟には、騎馬戦組み手工法。展示棟には、バット工法。これらの工法により、建築基準法限度一杯の大規模木造建築物を可能にした。どの木組みも目にすることができるのだが、木の柱が1つの織物を作っているような何とも艶やかなものである。
文楽館の職員、渡辺氏に館の運営などについて伺った。館は、文楽の劇場ということで劇場関係者も出入りするのだが、劇場裏のスペースが小さいこと、長く公演してくると倉庫など備品を収納する場所を確保することも難しくなっていること等の欠点を挙げていた。また、舞台上の昇降装置の使い勝手が悪いらしく、色々と工夫して使っているということだった。デザインやサイズを優先したために、関係者との不具合ができてしまったのであろう。このように工夫して使わなければならないこともあるのだが、この建物の特徴である、「木の香り」には深呼吸をしたくなるような清々しさがあり、ここを訪れる人は、この香りを大変気に入って帰られるとのことだった。渡辺氏にお話を伺っている間も、庇に覆われた通路を抜ける風に乗ってほのかな木の香りがしていた。
隣接する物産館は、近年道の駅にも指定され、多くの人がこの地を訪れている。文楽の公演は年に250〜300回、動員数は10万人にものぼる。
見た目には「静」を思わせる建物であるが、人が訪れることや、文楽が上演されることで「動」が感じられる場所であった。これからも、長く時を繋ぐ場所であってほしいと願う。
(高尾京子,中川貴幸)
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