
プライバシー無いと?これでA棟(ええと)?
(撮影:高山峯夫) |
◆A棟
設 計:早川 邦彦
建築年:1991年
所在地:熊本市清水町
私達が見学した日は日ざしがとても強く、少し高台にある団地Bの方からこの団地を望むと、敷地を囲む住棟や手前の広場には十分に日が当たっていた。広場には木陰のある涼し気な芝があったり、公園や集会所があったりと、住み手の憩いの場になっている様に思えた。しかし、実際に足を踏み入れると暗い印象を受ける。両端の5階建て住棟が全長170mという圧倒的な長さのため低層住棟に光が当たっていないからだ。
また、その低層住棟は個人のベランダと外の仕切りがなく、プライバシーが守られていない。自治会長の倭一明氏にお話を伺ったところ「見学に来た人は"外から中の様子や洗濯物が見えて…"等と好き勝手な事を言われるが、プライバシーはそこまで気にならない」とおっしゃっていた。住み手は以前から気の知れたお年寄りが多い。仕切りがない事が逆にバリアフリーにつながっているようだ。
他にもメンテナンスや維持費の問題で団地の壁がはがれている等の問題があり、それに対する見学者の意見も様々であるが、住み手には実用的なようであった。
(仲野 綾)
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Simple is B棟(Best)
(撮影:高山峯夫) |
◆B棟
設 計:緒方 理一郎
建築年:1992年
所在地:熊本市清水町
シンプル。B棟を見学し、そして誰もがこの言葉を口にしているのではないか。そしてまたこの言葉に連動するように、5棟のうちこのB棟が1番良いという声も聞く。確かにこの建物は他の棟に比べきれいにまとまっている。また、レンガ色の外壁も落ち着いた感じを出している。
しかし、建築の目から見た場合には、5つのうちの1つとして評価してしまう。どうしても他の4棟と比べてしまい、その1つの意味を勘違いしてしまうのではないだろうか。つまり、我々にとってはB棟の中庭がA棟の中庭的存在になってしまっているのではないだろうか。
確かにB棟1つだけとっても広場を中央に配しそれを挟んで、線対称のように2つの住棟が向かい合って建設され、また住棟に張り付けた階段部分と同様に人と人とのコミュニケーションを図っている。それらをごく自然にごく当たり前のように見せているため、かえって伝えるものの半分しか伝わってこない。そのせいか外で遊んでいる子供達の表情から楽しさが伝わってこなかった。
(筒井 隆光)
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忙しC棟さん(忙しい父さん)ピロティ走る
(撮影:高山峯夫) |
◆C棟
設 計:富永 譲
建築年:1993年
所在地:熊本市清水町
5つの棟の中ではこのC棟が一番良いのではないかと思う。東西に長くのびるファサード、シンボル性・コミュニケイションの場でもあるエレベーター棟を持つ。また東西で10mある敷地の高低差を利用して設けたピロティが公園的な遊び場として十二分に役割を果たしている。そして斜めに設けた柱がピロティを子供達の秘密基地的なものにし飽きさせない形と成っている。また構造的に言えば、トラスを組むことで柱の数が減り将来の住戸プランの容易な変更を可能にしている。また、隣のB棟やD棟の外壁の色が強いせいもあってか、C棟の白い外壁が太陽の光にうまく映え、清潔感・清涼感が感じられた。
しかし住み手の話を聞くと、外観からの想像とは逆に住みにくいと言う意見が多かった。
(筒井 隆光)
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階段はD棟(デート)コース
(撮影:高山峯夫) |
◆D棟
設 計:西岡 弘
建築年:1995年
所在地:熊本市清水町
先ず、目に付くのは壁面を沿っている階段だろう。D棟には集会場といった交流を図る場はないが、この交差のある階段がその役割を果たしているのだろう。しかし、住民の話によると意匠的に大きな役割を果たしているのはわかるが、他の住戸との行き来の際にどの階段を使っていいのかがわかりにくく不便である。また、上の階に行くまでに踊り場がなく高齢者や子供には困難であるという声があった。
そして、次に目に付くのはD棟とE棟の間に広がる広場である。この広場では自由に駆け回るような身体的遊びとこの建物の特徴の一つでもある色使いを見て楽しむ視覚的遊びがある。また斜面に広がる緑が心を和ませる。しかし、実際子供たちに聞いてみるとサッカーなどのボール遊びが難しくまた遊具のある公園がほしいという声もあった。
最後に余談になるかもしれないが、シンボルタワーを中心とする配置図とD-2平面図を眺めていると意外な関係が見えてくる…(謎)。
(岡田 紘枝)
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E棟。県道をD棟に遮られ、木々に包まれる静かな佇まい。基本配色は褪せても気にならない地味な茶系の色。これが通りゆく人々の心を和ませるかのよう。
(撮影:高山峯夫) |
◆E棟
設 計:上田 憲二郎
建築年:1995年
所在地:熊本市清水町
上田憲二郎氏設計の下、1995年竣工。地域の住宅スケールに馴染ませるための低層住棟二列が路地を挟む。D棟との間には過去の景観を再現するよう広がる斜面広場。
共有階段を持たせることによりコミュニティを。それが住棟全域を包むよう期待される。住棟の吹抜け共有屋外空間の一部にテラスを配置。1階は庭付き一戸建て住宅を思わせる景観。他方、2,3階住戸ではテラスが狭く機能的ではない。開口部は全般的に小さく、採光性に欠けるよう見受けられる。1階住戸では広場側開口部をアプローチとしているのが目に付く。住民にとっては使い勝手が悪いのだろうか。
残念なのはメンテナンス面。6年の歳月が壁の汚れ等を目立たせ、古く暗い印象を隠せない。斜面広場の涼しげな緑地は獣道としか呼べない。将来を見据え、メンテナンスを十分に考慮せねばならないが、住民にとってその費用は決して安価ではない。設計者と居住者との思いは、どれだけかけ離れているのだろうか。
(鳥越郁典)
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